大刀洗町に暮らしている人たちは、どんな風に暮らしているのだろう。
町の人たちの声に、耳を澄ましてみました。
西鉄甘木線・大堰駅から歩いてすぐ、飲食店の少ない大刀洗に、2014年の3月にオープンしたキッチンヴェロン。大刀洗の新鮮な野菜を使ったパスタやピザ、ボリューム満点の「どか盛りサラダ」が大人気です。飲食店の少ない大刀洗で、どうしてお店を始めたのか。オーナーの古賀さんにお店や町に対する思いを話して頂きました。
古賀 宗親さん
ー お店を始めようと動き始めてすぐ、物件探しで苦労をされたとか...。
最初は簡単に考えていたんですね。飲食店の空き店舗だと最初の投資が安く済むから、居抜き物件をと探していました。でも1年間くらいは見つからず、やっぱりやってみないとわからないですね。不動産屋さんには「毎日来られても、そう簡単には・・・」って言われてしまいました。
大刀洗でお店を開こうと思っていたけれど「そもそも飲食店が少ない上に、居抜きの物件が出るはずがない」という壁にあたってしまいました。悩んで色々と動いた末に、最終的に地元物件に強い大刀洗の不動屋さんのドアを叩いてみました。すると、「だいぶ年数は経っているけど、1件ありますよ。」と。そう教えて頂いたのが、今のこの場所なんですよ。
ー ここは、もともと何のお店が入っていたんですか?
居酒屋さんの前が別の居酒屋さん、その前が小料理屋さん、その前が、町の傘屋さん(笑)「前は○○○屋さんやったとよ!」と地元のお客様が教えてくださる、そんな歴史深い場所なんですよ。
場所は決まったものの、銀行への融資申込みはこれから、改装業者さん探しもこれから、お皿やキッチン用具など飲食店に必要な物も、探すところから始めないといけないという、色々なことを同時進行で進めなければならない状況で、ある改装業者の方には「借り入れが決まってからじゃないと見積りが出せません」と言われ、でも融資の申込みでは「何にいくらかかるんですか?」と金額を出さなければならない・・・今考えると「お店を出したい!」という情熱だけで突っ走っている、そんな感じでした。
ー 場所が決まったとはいえ、次々と壁にあたりますね...。
大刀洗は自分の地元じゃないので、誰に頼っていいのか分からない。融資もまだ決まらない。そんな時にお義父さんに「大工のKさんと飲むけん、おまえの気持ちを聞かせてみろ。」と昔堅気の大工のKさんを紹介してもらったんです。
「地元に密着したようなお店」「パスタやピザを出したい。」と、自分の気持ちをお伝えして・・・。でも、お金はない。情熱だけでお伝えしていたら「わかった!俺がやっちゃるけん、お前もあきらめんなよ!」って言ってくださって。心底励まされました。
そうしたら、改装に取りかかるために必要な人たちをKさんがみんな集めてくださったんですよ。
見る見るうちにお店が肉付けされていきました。大刀洗の自慢の一つである美味しい野菜も使いたくて、農家さんに気持ちをお伝えしてみたら「おう、わかった!おまえがそげんしてこの町でやっていこうと考えとるなら、野菜は俺が卸しちゃる。ピカイチのものを卸しちゃるから、それに恥じらん料理ば作れよ!」と卸してくれることになりました。そこから農家さんとのつながりがまた広がっていったり、近所の人も改装を見に来て「期待しています!」と応援してくださったり、少しずつ輪が広がっていきました。
木のあたたかさを感じるヴェロンの内装
ー 大刀洗でお店を始めたいと思ったのは、なぜですか?
お店を出そうと決めた当時は、大刀洗に住み始めて3年くらいしか経っていないことに加えて、他の町で働いていたこともあり、家には帰ってきては寝るだけの生活。そんな日々が続いていたので、自分の妻の生まれ育った町であるけれど、大刀洗という地とのつながりがなかなか深まりませんでした。
自分の地元ではないにしても、なにか寂しいというか「もっと根付きたい」と思ったことがお店づくりを始めるきっかけでした。家族以外の知り合いが本当に少ない中でのスタートだったんですよ。
でも、オープン前にも関わらず、キッチンヴェロンのことを自分の知らないところでを宣伝してくださっていて、お店の開店に向けて進んでいくのと共に仲間がパーッと増えていき、大刀洗の方々の優しさを肌で感じました。
ー 2014年からお店を始めて、はや2年。どんなお店を目指されていますか?
自分が目指しているのは「地元の定食屋さん」なんです。
飲食業界ではよく「お店を出すのであれば人口の多い都会にいけ」と言われます。それはそうなのかもしれません。でも、大刀洗にはこんなにも美味しい食材がある。その食材を一分一秒でも新鮮なうちに食べてもらいたい。大刀洗の方々にはもちろんのこと、「地元の定食屋さん」のような感覚で、美味しい料理が食べられるって思ってもらいたいなぁって。
大刀洗産ホウレンソウを使ったグリーンクリームパスタ
新鮮な野菜のある大刀洗町をPRしようと作った「どか盛りサラダ」。
「ようこそ大刀洗へ」という気持ちを込めている。
ー 時間が前後しますが、キッチンヴェロンをやる前は何をされていたのでしょうか。
23歳の時に東京のパスタ屋さんで働き始めました。でも、上京中に父が他界したんです。そして「家に女手しかおらんけん、帰って来てくれ」って言われて、1年くらいで地元に戻りました。それからフランス料理、焼き肉屋、大きな店舗の料理長に呼ばれたり、その次に、上京前にいた居酒屋に戻り、それからパスタ屋さんと・・・、もう履歴書が散々なことになっていますよ(笑)でもだからこそ、イタリアンの枠を超えていろんな料理を覚えることができました。
どの店でも、やめるときは手を振って「またどこかで一緒に働こう」と別れていて、今いる社員の1人も以前一緒に働いていた仲間なんです。別れる時に「料理のセンスがあるけん、いつかタイミングがあったら一緒に料理やろうや!」と手紙を渡していて、約8年ぶりに再会して、今、キッチンヴェロンの副店長として一緒に。8年前の夢がいま、叶っています。色んな職場を経験させてもらってきましたが、会ってきた人はみんな宝物やなぁって思っています。
お店を始める前は孤独で、「大丈夫」って言ってくれるのは家族と竜ちゃん夫婦くらいだったんですけど「家族だけでも認めてくれたらいいや、やれるところまでやってみよう。」って思っていました。でも、お店を始めてみたらいつの間にか味方が沢山いてくれた。それは大刀洗じゃなかったら無理やったなぁって思います。ここには、あったかくて応援してくれる人が沢山います。
ー 久留米まち旅博覧会(*1)や、本郷小学校の授業といった地域のイベントに積極的に関わっていらっしゃるのは?
まち旅は、大刀洗に訪れた人をもてなすことができる、お店として、まちの一部として足を運んでもらうきっかけとして貢献できるなって思い関わらせていただいています。
本郷小学校の授業は「子どもたちに夢を持ってもらおう」というテーマのもと、地元の醤油屋さんだったり、農家さん、喫茶店さん、能面づくりをされている方とともに自分もゲストティーチャーの1人として参加させていただきました。
ホウレン草をメインに、切ったり、湯がいたり、潰したり、焼いたりしながら、グリーンクリームパスタ、ホウレン草のクロックムッシュ風(グラタンサンドイッチ)、生で食べられるサラダを子どもたちと一緒につくりました。「私たちの町にはこんなに美味しい食材があるんだよ」「一つの食材でも色んな食べ方があるよ」と、これから夢に向かっていく子どもたちに少しでも料理人として一つでも伝えることができたらと思いながら。「地元のパスタ屋さんとして呼んでもらえたんだなぁ」と、また一つ夢が叶った嬉しい気持ちでいます。
(*1) 久留米市を中心に、大刀洗町を含む久留米広域定住自立圏の事業として実施。まちで暮らす人たちが慣れ親しんだ地元の地域資源を活かして、自らが訪れる人をもてなす「手づくりの旅」の企画。
ー 最後に、パスタとピザにこだわるのはどうしてですか?
自分の原点なんです。亡き父に「明日から東京いくけん、道具をあとから送って。」と伝えて、仕事も何も決まってないまま上京して働き始めたのがパスタ屋さんでした。「お前はそがんやって適当な人生ば歩めばいい」っていうのが父からの最後の言葉で、たぶん「店を出すなんて、お前じゃ無理だ」という気持ちがあったんだと思います。
でも、「あのときの東京に行くよっていった気持ちは本当ばい」って、伝えたいです。向こうでまた会ったときに「お父さん、結局会えんまんまやったけど、あのあと12年後にお店出したばい、本当に夢叶えたばい」って言いたいんですよね。これまで色んな所にいったけど、だからパスタ屋がいいなって。
古賀 宗親さん
キッチンヴェロン
住所:福岡県三井郡大刀洗町冨田1240-1
ランチタイム:11:00〜16:00(オーダストップ:15:00)
ディナータイム:17:00〜22:00 オーダストップ
定休日:毎週水曜日・第3火曜日
Facebookページ:https://www.facebook.com/kitchenveron/
暮らす人たちStory