大刀洗町に暮らしている人たちは、どんな風に暮らしているのだろう。
町の人たちの声に、耳を澄ましてみました。
2014年に大刀洗で新規就農し、一般的な野菜の他に、作る人の少ない西洋野菜を作ったり、町外に売りに行ったり、試行錯誤しながら農業に取り組んでいる中垣さん。3人の子のお父さんでもあり、仕事と子育てについて、どのように考えていらっしゃるのでしょうか。
中垣 晃博さん
ー新規就農をする前は、アパレル関係にいらっしゃったとお聞きしましたが...
はい、工業高校の土木科を卒業してからファッションデザインの学校に2年通って、海外サーフィンメーカーで7年間くらい働いていました。それから、農業法人RUSH FARMでの2年間の研修を経て、2014年の6月から自分で新規就農をしました。
ー どうして、急にアパレルからがらっと農業?
「農業」ではなくて「食べ物」というキーワードから入ったんです。
テレビで野菜ソムリエ(*1)のことを見て、調べてみたんです。「野菜をすごく知っているという人」という感じではなく、「野菜とか果物とかを色んな目線から伝えることができる人」が多くて面白い。いっぺんとってみようと思って、ジュニア野菜ソムリエを資格を取りました。各地域に野菜ソムリエのコミュニティがあって、福岡のコミュニティに参加するようになり、農家さんのところに行ったり飲食店に行ったりしているうちに「俺も野菜作ってみようかなと...」と思うようになりました。
コミュニティの人たちと訪れる所が、こだわりを持っていらっしゃたり、普通に作っていても伝え方が人と違っていたりしていて面白くて。そういう面を見たり感じたりしなかったら、農業をしなかったかもしれません(笑)農家さんと直にやり取りしている飲食店で、減農薬のことや野菜の説明をスタッフさんがきちんと全員できるようになっていたり、なかなか出回らない西洋野菜と呼ばれる野菜も、食べ方を丁寧に伝えていたりしていたのが印象に残っています。
野菜の栽培を決めてからは、専業農家の取組みや、やり方、販売面など実際にこの地域(大刀洗・小郡近辺)の農業がどういう仕組みになっているのか体感するために研修もかねて働くことにしました。RUSHFARMという水菜農家のところで2年間働き、さまざまな経験をすることができました。そこで現状をみて、こういう方向もあるけど、ここはこういう風にしてもいいんじゃないかと自分なりに考えて、いま自分で実践してみていて、きついなぁーって感じたりしています(笑)
(*1)日本野菜ソムリエ協会による資格。野菜や果物の魅力を伝えるために様々な知識を身につけている。
ー 実際に見て「こうやったら面白いな」と思いつく感覚は、どういうところから生まれるのでしょうか。
子どももみたいに何でも疑問をもつことですかね。常に「何で?」で立ち止まるからかもしれません。販売面でも、普通なら青果市場や農協さんといった市場に出すじゃないですか。でも、そうではなくダイレクトに消費者や使ってもらえるユーザーに販売できるのではないかとか「レストランや飲食店を中心に販売業務ができないのかな?」と思ったり、「自分で単価を決めて売ることはできないのかな?」とか、そういうことを思ったり「できない」と言われるとより達成してみたくなっちゃいますね。
ーブログを拝見すると、小郡にも出店されているようですね。
リーフレタスを中心に作っていてそれで生計を立てているんですけど、値段がすごい安い時期があって、なんとか自分でも売れないかって思い、三国ヶ丘に住んでいる友人がいたので、そこの駐車場を借りて毎月第3日曜日に物販しています。かれこれ1年ちょっと続けています。
中垣さんの畑(写真提供:中垣 晃博さん)
ー 作っている品種は、現在は何品種くらい作られていますか?
トライしたものを見直すと1年通して、40種類〜50種類だと思います。主としては、サニーレタスやグリーンリーフといったリーフレタス主体としています。シーズンとして8月下旬〜5月まで、オフシーズンの夏場は、空心菜とオクラを中心にしています。その脇で西洋野菜や変わり種の品種を栽培したり依頼があったものを試作したりしています。
栽培しているさまざまな野菜(写真提供:中垣 晃博さん)
ー 畑はどのくらいの広さですか?
90a、9反だから、専業農家としては、比較的少ない方だと思います。
ー自分のライフスタイルにあった農業をしようとしているとうかがったのですが、具体的に教えていただけますか。
休みたい時は休んで、仕事をしたい時は仕事をして、趣味の時間や子どもの時間を大切にしながら、という感じです。農業って、ずうっと休みがないイメージじゃないですか。確かに休みもないし、朝から晩まで作業をするんですけど、サラリーマンと比べたら好きに自分の時間が作れるから、その日のやるべきことを決めながらやっています。今日はここまでやって、あとは自分の趣味をやるとか、仕事を毎日やっているという感覚ではなく、趣味の延長という感覚でやっています。
いま、子どもが5歳と3歳と0歳の3人の子どもがいるんですけど、小さい間にはなるべく子どもに時間を合わせて、子どもの行事があったら必ず行ったり、帰りは迎えにいってもいいよとか、自分の生活の中で子どもといる時間や家庭でいる時間を大事にしています。
以前、会社員時代はサービス業だったこともあり帰りも遅く土日も休めませんでした。長女が生まれてからも毎日、寝顔しか見れていなく奥さんから子どもの成長を聞くものの・・・、なかなか感じることができませんでした。農家を始めてからも日々忙しいですが、以前より子どもの成長を感じられるようになりました。
子どもの成長はあっという間だし、小さい頃はその時しかないから、出来る限り子どもの行事は参加しますし、家族とのコミュニケーションの時間を作るようにしています。仕事は「その日のミッションが期限までに終わればいい」ってゴールを決め、時間をずらしたりしています。
中垣さんの野菜も使っているキッチンヴェロンでお話をうかがいました
ー 地域にも色々と関わっていらっしゃいますよね。
子どもの頃は、うちの地域だと「さぎっちょ(*2)」とか、小さいなりに地域の人たちがやってくれたが行事があって、それが今でも記憶に残っているんですけど、今はまったく無く、「もう一度やろう」という若者も少ないですね。
若い家族は、子どもができたのをきっかけに実家の近くに家を建てている方も多くなってきていますね。地域のイベントにも少しずつ若い家族や子どもも多くなってきていると思います。でも、「もっと行事があってもイイ」「僕らの年代が前に出てもイイ」と思って、去年の10月に思いつきでハロウィンをやりました。10人弱くらいしか参加者がいなかったんですけど、子どもたちも楽しかったみたいです。今年もやっていいんじゃないかなって思っています。
ハロウィンでは、ちゃんと家にお菓子をもらいにいったんですよ。地域の家に協力を頼みにいくと、力を貸してくれるしラッピングもきちんとしてあったりしていて、まちの人も何かイベントがあったら嬉しいんじゃないかな。
地域のイベントというか、子どもを外に出すようなイベントとか、それに親も一緒に出てそういうのを見て参加してくれる人がいれば、ばんばん募集しています。
(*2) 年初めに行われる無病息災を祈る地域行事。左義長、どんと焼き、ほうげんきょう、さいのかみ等、地方によって呼び方が変わる
ー これからこういう風にしていきたい、という考えはありますか?
仕事に対しては、これから多分、質のいいものが売れてくる時代になってくると思うので、質のいい野菜をつくりたいですね。特にヨーロッパは農業の先進国でもあり、野菜の出荷基準も日本の数倍厳しいです。
まずはそこを目標にし海外でも通用するうような「品質」のいい野菜の栽培に取り組んでいきます。
そして、その安全性を消費者やユーザーに発信し、「食べ物」に対する大切さをもっと伝えていけたらと思います。
アチコ'sふぁ~む
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