見渡す限り広がる平野に芽吹く葉物野菜達は、大刀洗を代表する風景の一つ。
青々と実る葉物野菜に夢をのせて、大刀洗の未来を考える若き農業家が活躍しているのをご存知でしょうか?
今回のナビゲーターは、大刀洗で野菜農園「アチコ'sファーム」を営む中垣晃博さん。
食べる事が大好きなライター・大内をお供に、中垣さんの野菜を使った人気レストランや最近気になっているITテクノロジーを駆使した農業工場に潜入。
大刀洗の青空の下、様々な角度から「食と野菜と健康」について考えます。
案内する人
中垣 晃博さん
大刀洗出身。アパレルショップのスタッフから農家に転身。現在では、野菜ソムリエの資格を持ち、サニーレタスやグリーンリーフなどを中心に年間で約50種を栽培。周辺の市場や飲食店へ卸すとともに、毎月第3日曜には「野菜屋アチコ」で直接販売している。プライベートでは3児のパパとしても奮闘中!
案内される人
ライター 大内
食べる事が大好きで、普段はガッツリ肉食女子。野菜不足の生活をどうにかしたいと思ってはいるが、中々実行に移せずじまい。今日は野菜について学びたいと鼻息荒く参加。
-
アチコ'sファーム
大刀洗にある中垣さんの農園「アチコ'sファーム」へ。鮮やかなグリーンのレタスや紫キャベツ、大根など、みずみずしい野菜たちは見ているだけで鮮度の良さが伝わります。腰丈くらいのビニールドームの間から爽やかに登場した中垣さん。
-
大内
-
おはようございます!
農作業中なのに、とってもおしゃれですね!
-
中垣さん
-
宜しくお願いします。
ありがとうございます。
-
大内
-
アパレルから農業家に!
思い切りましたね〜。
どんなきっかけで農業に?
-
中垣さん
-
もともと大刀洗の実家が米を作っていて、食に興味があったのですが、子どもが生まれてから、きちんとしたものを食べさせたいと思って農業を始めました。
小郡市の農家へ研修に行って、ハウス栽培を学んで。
「アチコ'sファーム」を開いたのは2014年6月です。
-
大内
-
なるほど!
その思いは今の野菜作りにも生かされているんですか?
-
中垣さん
-
そうですね。
大量生産するのではなく、なるべく農薬を使わず、手をかけて育てた良質な野菜を目指しています。
買ってもらった人が満足してくれるような。
-
大内
-
ルッコラとか、紫白菜とか、市場では見かけない珍しい野菜も多いですね。
-
中垣さん
-
洋野菜などはレストランへ卸していて、おもしろい品種をというリクエストもあるんです。
これなんてキャベツですよ。
-
大内
-
丸くないんですね!
葉も黒っぽくて厚い。
味も青味が濃くて。
-
中垣さん
-
煮ると濃厚な味が生かされておいしいですよ。
-
大内
-
確かに!
食べごたえがありそう。
中垣さんの野菜は、どこで買えるのですか?
-
中垣さん
-
筑前町の直売所や大野城のイオン、遠くはマリナタウンで扱っています。
あとは毎月第3日曜に「野菜屋アチコ」としてセブンイレブン小郡三国が丘店で直接販売をしています。
-
大内
-
直接販売もされているんですね!
-
中垣さん
-
直接お客さんの顔を見ることができて、やりがいがありますね。
リピーターになってくださると嬉しいです。
-
大内
-
直売所などで「生産者の顔が見える野菜」として、野菜と一緒に作り手の情報が載せられていますが、野菜を作る側にとっても食べてくれる人の顔が見えるって大事なんですね。
実際に中垣さんの野菜を使ったメニューを出しているという大刀洗のレストラン「キッチン ヴェロン」さんへ。
その前に、中垣さんが前から気になっていた場所があるそうなので、行ってみました。
-
中垣さん
-
工業計器を製造、販売している「神港テクノス」という会社で、水耕栽培のレタスを作っていると聞きました。
-
大内
-
工業計器の会社と農業?不思議な組み合わせですね。
そんな訳で、大刀洗にある「神港テクノス」さんへ突撃。
応対いただいた上野さんにハウスを案内してもらいました。
-
中垣さん
大内 -
こんにちは!
今日はよろしくお願いします。
早速ですが、こちらはどんな会社さんですか?
-
上野さん
-
ようこそ!
私たち「神港テクノス」は、もともと工業用計器の製造が本業で、温度や湿度を計測、調節する機器を様々なクライアントに合わせて設計・販売しています。
-
大内
-
あのう、レタスを栽培していらっしゃるとお聞きしたのですが、どんな理由で始められたのですか?
-
上野さん
-
当社のシステムを使って、何か地域貢献をできないかと考えたのが始まりです。
そこで、まずは自分たちでやってみようと、ハウスを建てて、内部でレタスを栽培してデータを取っています。
まずは、ハウスの中へどうぞ。
ハウスの入り口では消毒後、帽子とエプロンを付けて中へ。
まるで食品工場のような厳しい衛生管理が徹底されています。
明るくて温かいハウス内には、腰くらいの高さの栽培ベッドが8本あり、
それぞれに水が満たされ、発砲スチロールの苗床が浮かんでいます。
土を使わず、水だけで育てる水耕栽培だそうです。
-
上野さん
-
このハウスの中では、温度、湿度、CO2を始め、日照量や風向き、養液濃度など総合的にコンピューターで制御しています。
-
中垣さん
-
全部コンピューターなんですか!
すごい!
収穫までの流れはどうなっているのですか?
-
上野さん
-
まずは、レタスの苗を穴の空いた発泡スチロールに差し込んでいきます。
その発泡スチロールを養液の入った栽培ベッドに浮かべ、育てます。
レタスが大きくなるにつれて苗床を移し替えて、育ったら収穫します。
現在はこのハウス内を3名で管理しています。
-
中垣さん
-
あまり人の手を使わずにまとまった量を収穫できるのですね。
-
上野さん
-
農家の人の手間を少しでも減らせるよう、コンピューターのシステムを使っています。
栽培ベッドを動かすのもこのハンドルで簡単にできるので、女性の方でも楽に作業できますよ。
-
大内
-
土耕栽培に比べてどう違うのですか?
-
上野さん
-
定植後、約3週間で出荷します。
土耕だと、一度育てれば土の中の栄養が減ってしまいますが、水耕だと何度でも大丈夫。
また、虫などが入らないようにしているので、薬もあまり必要ないですね。
もちろん、栄養素は土耕と変わりません。
-
中垣さん
-
畑で育てると約2か月なので、かなり短いですね。
しかも、まとまった量を安定して育てられる。
こちらでは今は2種類のレタスを育てていて、コンビニやスーパーに卸しているそう。
大阪本社を筆頭に国内外で工場や研究所を設置していますが、
ハウスを作って水耕栽培を実施しているのは、この大刀洗の工場だけなんです。
-
上野さん
-
工場設立から営業まで、大刀洗にはお世話になっているので、この土地で盛んな農業を支援するシステムを作ることで、恩返しになればと思って日々取り組んでいます。
若い世代の人も農業を始めてもらって、大刀洗を盛り上げて欲しいですね。
-
中垣さん
-
とても嬉しいお言葉です!
専門的な事なども含め、いろいろと質問をしていた中垣さん。
システム化された新たな農業の形は、プロから見ても面白い内容だったようです。
-
中垣さん
-
いや〜、おもしろかったです!
勉強になりました!
洋食によく使うベビーリーフなどを育ててみたらいいかもしれない。
う〜ん。
早速農業プランを練っている中垣さん。
農業について学んだ後は、実際に味わってみたい!
ということで、中垣さんの野菜を扱う「キッチン ヴェロン」さんへ。
この日はランチのパスタに「アチコ’sファームの芽キャベツ&桜海老&ゆかりのペペロンチーノ」が登場。
早速オーダーしました。
-
大内
-
ほんのり甘みがある芽キャベツを桜海老の旨味とピリッと辛い唐辛子が引き立てています。
ゆかりの香りもポイントですね。
「キッチン ヴェロン」さんはとても人気の店と聞いていましたが、納得です!
-
中垣さん
-
もともとは役場の方からヴェロンさんを紹介してもらって、1年ぐらいになります。
今ではメニューに名前まで入れてもらってます。
-
大内
-
こちらで使う野菜は種類が決まっているのですか?
-
中垣さん
-
今はうちで作っている野菜から選んでもらっています。
少なくとも3か月前には作る野菜を決めないと間に合わないので、なかなか難しいですが、ゆくゆくはスポット的にまとめて提供できればと。
-
オーナーさん
-
よう来たね〜。
味はどうですか?
-
大内
-
とてもおいしいです!
芽キャベツがゴロゴロ入って、ぜいたくですね。
こちらでは野菜にこだわっていらっしゃるとお聞きしたのですが、きっかけは何ですか?
-
オーナーさん
-
妻の地元である大刀洗に引っ越して来たのですが、この土地の名物を生かした料理を出したいと思って探した所、野菜かなと。
-
大内
-
なるほど。
実際に大刀洗でオープンされてみて、どうですか?
-
オーナーさん
-
正直、この土地の良さを感じたのは越してきてからですね。
野菜を主役にしたいと思っても、最初はなかなか地元の野菜が手に入らず。
義父が野菜農家さんを紹介してくれたり、常連さんができたりと、たくさんの人に支えてもらえて、本当にありがたかった。大刀洗は飲食店が少ないので、やっていけるかどうか不安もありましたが、だからこそ遠くに食べに行くのではなく地元でおいしい料理を食べて欲しいと思いました。
なんね。
真面目な事言いよるけん、笑いよろうが〜。
-
中垣さん
-
いやいや(笑)いい話です。
-
大内
-
今では、遠方から来る方も多いと聞いています。
-
オーナーさん
-
おかげさまで、地元のお客様だけではなく、町外からもご来店頂いております。
地元の人にはベーシックなイタリアンを、町外の人には大刀洗の野菜を使った創作パスタを、どの人にも満足して欲しいとランチのメニューはパスタ7種類、グラタンやカレーなども用意しています。
-
大内
-
その気配りが嬉しいですね。
セットに付くサラダの名前も「どか盛りサラダ」でたっぷり食べられます。
-
オーナーさん
-
町外から来た人にも「大刀洗っていいね」って思って欲しくて。
お代わり自由にしています。
今では熊本から通ってくれる常連の方がいますよ。
時期によっては野菜の確保も難しいそうですが、それでもこだわっていきたいと語ってくれたオーナーさん。
中垣さんの野菜への姿勢にも重なっているような気がします。
-
大内
-
ちなみに中垣さんの野菜はどうですか?
-
オーナーさん
-
世界一おいしい野菜を作ってくれると思っています。
自分が使ってみたかった野菜、面白い品種や珍しい野菜も作っているし、鮮度も抜群!
野菜についてはよく相談します。「これ作って」とか言って
-
中垣さん
-
たまに無茶振りもありますが(笑)
-
オーナーさん
-
去年の秋は小さい品種のゼブラナスを丸ごと使ったジェノベーゼが女性にえらい人気でしたね。
これを目当てに来る人も多かった。
中垣さんの野菜は女性の心をつかむのかも。
-
大内
-
今日の芽キャベツもつかんでましたね。
-
オーナーさん
-
ユニークな野菜はどう料理するか悩む時もありますが、勉強にもなりました。
料理人として一生懸命育ててくれた野菜を見ると、こちらも最高の味を表現しなければと思います。
これからもスクラムを組んで、いろいろなメニューを考えていきたいです。
-
大内
-
中垣さんはどう思われますか?
-
オーナーさん
-
暑苦しいち思いよろうが。(笑)
-
中垣さん
-
いやいや、ぜひ、一緒にやっていきたいです!
僕も職人というつもりはないけど、すごく熱いんですよ。
だから、こんな気持ちを分かってくれる人、しっかり使ってくれる人には全力で応えたいです。
オーナーさんと中垣さんの間をバトンのように野菜がつないでいる。
目の前の芽キャベツのパスタはまさに二人の合作のような、そんな印象を受けました。
大刀洗の食のリレー、次なるゴールはどこにあるのでしょうか?
-
大内
-
大刀洗を担う若い世代や子どもについて思うことはありますか?
-
オーナーさん
-
料理人として自分の仕事の喜びを伝えていければいいなと思います。
料理人になって欲しいというよりは、自分の夢を持って育って欲しい。
-
中垣さん
-
もう少し若い世代の農家が増えればいいですね。
新しい取り組みできちんと採算が取れて生活できるような仕組みを考えなければ。
大刀洗の食に隠された作り手同士の絆に思わず感動。
作り手の思いを知ると、ますます料理がおいしく感じられます。
食について深く考えることは、作ってくれる人、食べてくれる人と真剣に向き合う事でもあるのだと思います。
後半では、野菜の作り手となった中垣さんが影響を受けた人と場所を訪れ、食にもつながる「教育」について考えます。